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今回は、脳卒中うつについて解説していきます。
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脳卒中うつの基本情報
脳卒中うつは「他の一般身体疾患よりも高頻度にみられる」との報告があり、有病率は30〜40%となっています。1)
症状
うつの代表的な症状として、
①気分:
抑うつ、不安、焦燥感、自責感、劣等感、気分の日内変動
②思考:
思考停止、妄想、希死念慮
③意欲:
興味・関心の減退、活動性の低下
④身体:
食欲の減退、体重低下、疲労感、倦怠感
⑤睡眠:
入眠障害、早朝覚醒、熟眠感の欠如
が挙がります。
罹患すると
また、脳卒中うつに罹患すると、、、
・ADLの回復遅延
・認知機能の悪化
・死亡率が(自殺率も)高まる
などの事が明らかにされています。2)
一方、脳卒中うつ対象者に適切な介入をする事で、「ADL、認知機能ばかりでは無く、生存率まで改善される」との報告があります。3)
脳卒中ガイドラインでも「脳卒中後のうつは、ADLや認知機能の改善を阻害し、健康QOLが低くなるため、十分な評価を行い、リハビリテーション治療を進めることが勧められている(グレードB)」とされています。4)
脳卒中うつの現状
脳卒中うつの現状として、脳卒中後の運動麻痺、認知機能障害、失語などの神経学的所見によって隠れており、加えて脳卒中後の心理的反応の一部として解釈され過小診断に陥りがちです。
実際に50〜80%の割合で脳卒中うつが見逃されているとの報告もあります。5)
原因
脳卒中後、「5年以内の有病率は約30%前後であり、発症から3〜6ヶ月の早期と、発症から2〜3年後の慢性期が多い」とされています。
・早期に出現する原因として、
損傷によって前頭−大脳基底核−視床の情動系神経回路が傷害される事が理由のひとつです。
この場合、脳卒中後に見られる気質性(脳の障害によるもの)が原因とされています。
・慢性期に出現する原因として、
社会心理学的要因や、脳の萎縮といった要因も加わった複合的な原因が理由のひとつです。
この場合、心因性が原因(脳卒中を患った事への心理的反応)とされています。6)
危険因子
脳卒中うつの危険因子として、うつ病や糖尿病などの既往歴がある場合や、脳卒中後の機能障害が重度で心理社会的学的要因がある場合が危険因子として挙がっています。2)
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脳卒中うつの評価
脳卒中うつに用いられる評価として、
・SDS
・JSS-D
・HADS
などがあります。
SDS
Zungうつ病自己評価尺度、通称SDSと呼ばれています。
SDSは、質問式で聴取する自己評価となっています。
image:7)
SDSの素点として、
・0〜49点:正常範囲
・50〜59点:軽度のうつ状態
・60〜69点:中等〜高度のうつ状態
・70〜140点:極度のうつ状態
になっています。
JSS-D
日本脳卒中学会・脳卒中うつスケール、通称JSS-Dと呼ばれる定量的スケールです。
特徴として、項目数が限られており、臨床上で簡易的に使用出来る事が挙げられます。
JSS-Dは、
①気分
②罪責感、絶望感、悲観的な考え、自殺念慮
③日常活動への興味、楽しみ
④精神運動抑制または思考停止
⑤不安、焦燥
⑥睡眠障害
⑦表情
の7項目から構成されます。
image:8)
HADS
Hospital Anxiety and Depression Scale、通称HASDと呼ばれる自己記入式質問評価となっており、不安に関する7項目と抑うつに関する7項目の2スケールに分けられています。
image:9)
カットオフ値として、
・0〜7点:正常
・8〜10点:軽度
・11〜14点:中等度
・15〜21点:重度
になっています。
脳卒中うつに対する介入
脳卒中うつに対する介入として、主に薬物療法と非薬物療法があります。
薬物療法
脳卒中ガイドラインより、「うつ状態に対して、早期に三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬を開始することが勧められる(グレードB)」としています。4)
実際に、「早期に内服を開始するとADLや認知機能のみならず、再梗塞を低下し予後を改善する」との報告が示されており、つまり、不眠の改善や、日中の焦燥感が改善される結果、「リハビリテーションを行う事が可能となり、直接的にADLや認知機能などに介入出来る」という事になります。10)
非薬物療法
非薬物療法は主に「リハビリテーション」が主流です。
一般的にうつ病の対応として、「休ませる、励まさない」事で知れ渡っていると思います。この対応は脳の病気としての対応とされています。
脳卒中うつの対象者に対して、休ませる事は「更なるADL低下、廃用症候群の悪化に繋がり、さらにうつが悪化し悪循環になる」との報告があります。11)
その為、脳卒中うつの対象者に対して重要な事は、「適切な声かけと、適度な運動量の維持」です。
対象者の訴えや発言を否定せず、共感し適度な励ましが必要となります。
また、対象者を取り巻く環境にも注意を向ける必要があり、家族や周囲からサポートを得られているのか、などといった情報の把握も必要です。
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参考・引用文献
1)下田健吾:脳血管障害に伴ううつ病への対応. Depression Strategy.9(3):P13.2019.
2)Robinson RG:The clinical neuropsychiatry of stroke,2”d edition.Cambridge University Press.2006.
3)Robinson RG,et al:Post-stroke depression:a review. Am J Psychiatry173.:P221-231.2016.
4)日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会 (編):脳卒中ガイドライン.:P317-318.2015
5)Robinson RG,et al:Poststroke depression:a review. Can J Psychiatry.:P341-349,.2010.
6)下田健吾:脳脳梗塞合併症に対応する‘‘ワザ’と“知恵”うつ病(脳卒中後うつ病).薬局2019Vol.70,No.3 .:P144,2019.
7)Japan Committee for Prevention and Treatment of Depression 一般診療科におけるうつ病の予防と治療のための委員会 :うつ病診療の要点-10 JCPTD うつ病啓発活動 30 周年記念 .:P20,2010.
8)日本脳卒中学会Stroke Scale委 員会(感 情障害スケール作成委員会):日本脳卒中学会・脳卒中感情障害(うつ・情動障害)スケールJapan Stroke Scale (Emotional Disturbance Scale)〈JSS-D・JSS-E〉.脳卒中25巻2号.:P25-211,2003.
9)八田宏之:Hospital Anxiety and Depression Scale日本語版の信頼性と妥当性の検討.女性を対象とした成績.心身医 第38巻第5号.:P311.1998.
10)下田健吾:脳血管障害に伴ううつ病への対応.Depression Strategy.:P15.2019.
11)先崎章:脳卒中後のうつ・アパシーへの対応.MB Medical Rehabilitation.:P88.2019.
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