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ブログを運営している作業療法士のYudai(@yudai6363)です。
今回の記事では、脳卒中後の自動車運転に重要な①視野系②運動・感覚系③認知系を中心に述べていきます。
自動車運転に対して「全身状態が安定している事」が重要です。
アメリカ医学会のガイドラインでは、安全な自動車運転を実現する為には、①視覚②運動・感覚③認知の三要素が必要であると述べています。1)
・視野系では
→「視力が保たれ半側空間無視が無い事」
・運動・感覚系では
→「運動操作能力がある事」
・認知系では
→「注意、遂行機能、記憶機能、情報処理速度、メタ認知能力が保持されている事」
が前提です。
日本の道路交通法では、安全運転に必要な「認知・予測・判断または操作」に関わる能力を欠く事となる脳卒中は、自動車運転の拒否または保留の対象となります。
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基本的な知識
脳卒中後の自動車運転の再開にあたり、基本的な要素としてまず、
・運転中の一定の時間、全身状態が医学的に安定している事
・障害の進行が無い事
を確認します。
日本において、期間の細かい規定はありませんが、アメリカ運転免許交付局が示している運転再開の基準では、脳梗塞、脳出血、一過性脳虚血発作の場合、発症後1ヶ月は運転を控え、職業運転手であれば1年間運転を控えるとされています。
くも膜下出血に対しては、脳動脈瘤に対する処置がされている場合は臨床上の回復に従い、運転が再開出来るとされています。
急性硬膜下血腫に対して開頭手術を行った場合では6ヶ月は運転を控えるとされています。2)
一方、カナダオンタリオ州で示されているガイドラインでは、治療されていない脳動脈瘤を有する対象者は運転する事が禁止されており、外科的治療を受けた脳動脈瘤対象者でも運転を再開するには3ヶ月待つ必要があるとされています。3)
視野系
日本の道路交通法では、自動車運転に必要な適正についての免許試験の合格基準として「視力が両眼で0.7以上かつ一眼でそれぞれ0.3以上ある事、又は一眼の視力が0.3に満たないもしくは、一眼が見えない者については、他眼の視野が左右150度以上で、視力が0.7以上である事」とされています。4)
しかし、この条件では半側空間無視が生じていても合格基準に満たしてしまう場合があります。
半側空間無視
半側空間無視が日常生活に顕著に生じている場合は自動車運転の対象になりませんが、軽度な半側空間無視は、そもそも半側空間無視の症状を見落としがちです。
その為、軽度な半側空間無視が生じている場合、実際の自動車運転のような複雑かつ動的な場面ではじめて問題が顕著となる場合が多くドライビングシュミレータを用いて評価する事が推奨されています。
感覚・運動系
基本的に脳卒中によって、重度の運動麻痺や失調、感覚障害があっても、「座位が保たれ、安全な運転操作が可能であれば運転は再開出来る」とされています。
実際に武原の報告によると、上肢については BRSがI~IIの廃用手でも問題ないとされていますが、廃用手の場合では、健側のみで操作を行うように自動車を改造する必要があります。
下肢については、装具を装着し歩行が自立していれば問題は無いとされています。5)
その際には、ハンドル操作では回旋ノブを付ける、右片麻痺や重度感覚障害であればブレーキやアクセルの位置を変更する必要があります。
また自動車運転の再開前にはドライビングシュミレーターで練習したり、指定の自動車運転教習所で練習する様に指導します。
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認知系
Michonらは、運転における認知機能に関して3つの段階構造を提案しています。6)
Strategical level
Strategical levelでは、「運転目的と運転計画を立案し実行に移すまでの認知機能」とされ、運転中の計画の柔軟な変更などを決定を指します。
これらは、左右の前頭前野を主体とする遂行機能が関与します。
その他にも、運転の安全に対する自己責任の自覚と自己の運転能力の限界を自覚するメタ認知を含みます。
Tactical level
Tactical levelでは、「運転中の刻々と変化する状況に対応する認知過程」とされています。
障害物を回避し車間距離をあけた安全な運転を実行する為には、注意機能、視覚走査能力、時間推定能力、視空間認知機能などを要します。
これらは、両側前頭葉、右頭頂葉、後頭葉から角回、縁上回に至る視覚処理機能が関与します。
その他にも、運転中に急な事態に即対応しなければならないので、迅速な情報処理、さらに冷静に対応するうえでの感情コントロール能力も必要となります。
Operational level
Operational levelでは、「ブレーキ、アクセル、ハンドルなど視覚情報をもとに運動に変換する過程」とされています。
これらは、後頭葉から前運動野を経由して運動野に至る経路、前頭葉と基底核を結ぶ閉鎖回路、前頭葉と対側小脳とを結ぶ閉鎖回路が関与します。
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自動車運転再開が可能となる目安
運転が可能と判断する基準として以下の目安があります。
①脳画像
広範囲な損傷の有無を確認します。(特に両側に及ぶ前頭葉損傷および右頭頂葉を中心とする損傷が広範囲で無い事)
②日常生活
日常生活が自立している事が前提です。(車椅子でも可能)
③高次脳機能
高次脳機能障害があっても、社会生活上で支障とならない事が前提です。
蜂須賀らが定めた自動車運転の診断基準では、
・MMSE:→18〜30歳–25点以上/中高年24点以上
・TMT-A:18〜30歳–42秒以内/中高年63秒以内
・TMT-B:18〜30歳–82秒以内/中高年159秒以内
・Rey-Osterriethの複雑図形の模写:34点以上
・SPA:境界または正常
・FAB:18〜30歳–15点以上/中高年12点以上
・BIT:140点以上
とされています。7)
自動車運転再開の流れ
最後に脳卒中後の自動車運転再開の最終判断は、医師でも療法士でも無く公安委員となります。
公安委員が運転免許の交付、効力停止、取り消し、停止などを執り行います。
医療側は、診断書を作成し意見を述べますが、自動車運転の可否を決める事が出来ません。
私たちの役割として、病気の診断、自動車運転に影響する認知機能や運転操作能力の評価、リハビリテーションの実施、診断書(医師が作成)の作成です。
参考文献
1)TheAmericanMedicalAssociation(AMA):Physi- cian’s Guide to Assessing and Counseling Older Drivers. 2nd ed.2010.
2)Drivers Medical Group DVLA, Swansea:For Medical Practitioners at a Glance Guide to the Current Medical Standards of Fitness to Drive. 2011.
3)Heart and Stroke Foundation of Ontario:Stroke, Driving and the Health Care Professional Rules and Guidelines. 2007.
4)適正試験の合格基準 警視庁–東京都のHP
5)武原格,特集自動車運転再開とリハビリテーション医療2脳卒中後の自動車運転再開. JpnJRehabilMedVol.57No. 2 2020
6)Marshall SC, Molnar F, Man-Son-Hing M, Blair R, Brosseau L, Finestone HM, Lamothe C, Korner-Bitensky N, Wilson KG. Predictors of driving ability following stroke: a systematic review. Top Stroke Rehabil. Jan-Feb;14(1):98-114, 2007.
7)蜂須賀研二,加藤徳明,自動車運転リハビリテーション-運転再開と中止.医学のあゆみ,Vol264No13.2018.3.31
・渡邊修, 特集自動車運転再開とリハビリテーション医療1リハビリテーション医療における自動車運転再開の判断. JpnJRehabilMedVol. 57 No. 2 2020.
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